通級指導教室という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。初めて聞いたという方から、うちの子どもが通っている学校にあるので名前だけは知っているという方もいらっしゃるでしょう。もしかしたら、お子さんを通級指導教室に通わせようと思って色々と情報を集めてここに来られた方もいらっしゃるかもしれません。
このページでは、わかりやすく通級指導教室とはどんなものなのかを解説したいと思います。支援の必要なお子様の保護者の方や通級指導教室に興味をお持ちの方にぜひ読んで頂きたい内容です。また、通級指導教室の担当の方をはじめ通常学級の担任の方にも参考になる内容になっていると思います。
通級指導教室をわかりやすく解説
通級教室はどんな子どもが通うの?
通級指導の対象は、言語障害者、自閉症者、情緒障害者、弱視者、難聴者、学習障害者、注意欠陥多動性障害者、その他特別の教育課程による教育を行うことが適当なものとなっています。
たくさんの障害が挙げられているので、結局どんな子どもが対象かよくわかりませんね。もう少しわかりやすく説明します。この中に、知的障害者が含まれていないことに気づかれたでしょうか。そうです。知的障害は通級指導の対象ではありません。知的障害の場合、特別支援学校や特別支援学級がその受入先になります。
では知的な遅れはないが、学習に遅れが見られる子どもっていますよね。これらの子どもは対象なのでしょうか。答えは対象である場合もあるしそうでない場合もあります。学習の遅れが何らかの障害によるものである場合は、通級指導教室の対象になりますし、学習の遅れが障害とは別の原因である場合は対象になりません。
これは、通級指導教室での学習内容から考えると納得できます。あとで詳しく解説しますが、通級指導教室で学習することは、遅れている学習の補習ではなく、障害の軽減であったり、障害の補完であったりするからです。例えば、眼球の動きが悪く黒板とノートの間を視線移動が難しい子には、眼球運動トレーニングを行うことでクラスでの学習の妨げになっている要素を取り除いたり軽減できたりします。
通級教室の成り立ち
通級指導教室での学びを考える上で、その成り立ちを簡単に振り返っておきましょう。
通級指導教室は、平成5年(1993年)に言語障害、情緒障害、弱視、難聴、肢体不自由、病弱、身体虚弱を対象として始まりました。ただ、開始当初は障害の種類が限定的で、しかも指導時間数も限られたものであったため、平成18年(2006年)に対象と指導時間が改定されています。
これにより、対象となる障害が、LD、ADHDなど発達障害等も含めるものになっています。これには、小・中学校の通常の学級に在籍するLD、ADHDの児童生徒に対する適切な対応の必要性が強く感じられるようになったという背景があります。
この改定より後になりますが、平成24年(2012年)に国が小中学校の教職員対象に行ったアンケート調査では、「発達が気になる児童生徒」の割合は約6.5%だったという結果がでています。35人学級であれば、2人以上はどのクラスにも発達が気になる子どもがいることになります。一人一人の特性に合わせた指導を努力しているにもかかわらず、現場では難しい状況であるのはわかりますね。
通級指導はどのように行われているの
通級指導教室に在籍すると、決められた曜日時刻に自分のクラスから通級教室に子どもが通ってくることになります。ただ、全ての学校に通級指導教員が在籍している訳ではないので、自分の学校に通級指導教室がない場合もあります。そこで、通級指導教室の不足をカバーする方法として、巡回指導と他校通級という方法がとられています。巡回指導は、指導する教師が他校に出向いていき、そこで子どもの指導を行う方法、他校通級は、子どもが通級のある学校に通うという方法です。
ところで、通級の時間数は、1人につき週に1時間~8時間です。この時間は、在籍クラスの授業を抜けて行う場合と放課後に行う場合あります。ただし、通級指導教員ひとりが放課後に確保できる時間が限られることと、子どもの授業時間が増えてしまうこととで、在籍クラスの授業を抜けて通級指導を行っているのが大半でしょう。
通級教室ではどんなことを学習するの
「障害に応じた特別の指導は、障害の状態の改善又は克服を目的とする指導とする。ただし、特に必要があるときは、心身の故障の状態に応じて各教科の内容を補充するための特別の指導を含むものとする。」(学校教育法施行規則第百四十条の規定による特別の教育課程について定める件-平成五年文部省告示第七号)
通級教室での学習内容は上記のようになっています。肝心なのは「障害の状態の改善又は克服」を目的とするとなっている点で、各教科の補充は「特に必要があるとき」に行うということです。
つまり、通級指導教室での時間は、在籍クラスの授業の補填に主眼を置くものではなく、本人の状態を改善・克服するためのものであるということです。通常の授業を抜けて通級教室に来た場合、当然、学習がその分遅れることが考えられます。しかし、一時的に学習が遅れたとしても、優先的に行う必要があるのが障害の状態の改善又は克服なのです。
これは、児童生徒にとって何が今大切なのかということに他なりません。困難を改善・克服する事で、クラスでの学習の質が高まることにつながって行きます。学習の補習が対症療法的な対応であるのに対し、通級教室は原因療法的な対応を目指しているということになると思います。
困難を改善・克服する自立活動
通級指導教室の主たる学習内容である児童生徒の困難を改善・克服する活動を自立活動といいます。
自立活動の内容は、人間としての基本的な行動をするために必要な要素と、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するために必要な要素に分けられます。それらの要素はたくさんありますが、「健康の保持」「心理的な安定」「人間関係の形成」「環境の把握」「身体の動き」及び「コミュニケーション」の六つの区分に分類・整理することができます。
初めて習う学習でパニックになるという子どもの場合を考えてみましょう。この子の起こすパニックに対して、通級指導教室で自立活動を行う場合、「心理的な安定」を中心に行うことになるでしょう。
具体的な方法は、「新しい学習前に、得意な学習分野の復習で、自信をつけてから進めていく。」とか「新しい課題になれるような訓練をパニックを起こさない程度のものから行っていく」などが考えられます。通級指導教室で、そうしたことを繰り返し行っているうちにやがて自信をもち、パニックにならずに受け止めることができるようになっていきます。このようにして、「心理的な安定」を身につけることができ、クラスでの学習にも適応できるようになっていくと思われます。
通級指導教室を機能させていくために
重要な保護者とクラス担任との連携
通級指導教室を行うにあたって、保護者の方とクラス担任、通級指導教員との連携の重要性は、言うまでもないでしょう。
ここで、保護者の方とクラス担任の方へ通級指導教員を経験した立場から、気に留めておいて頂きたいことをお伝えしたいと思います。
保護者のかたへ
これは通級教室へすでに入られている方、もしくは通級を希望されている方に向けたものになりますが、卒級のお話です。
通級指導教室は、自立を目的としたものであるため、障害が克服されたり、通常学級で問題なく学習できるようになれば、速やかに卒級するのが望ましいです。いつまでも、通級指導教室に通うことが、かえって自立を妨げることになっては意味がありません。過支援という言葉があります。支援の必要がないのに支援することですが、過支援になるとそこに慣れてしまって、本当は支援がなくてもやっていけるのに、支援を求めてしまうようになります。
通級指導教室は、担当の先生の受け持てる人数や時間も限りがありますので、希望する児童生徒がすべて通える訳ではありません。このように入るのは難しいかもしれませんが、適切な卒級のタイミングを逃さず捉えることもさらに難しいかもしれません。担当の先生や担任の先生と連携を取りながら、卒級のタイミングを逃さず捉えたいものです。
学級担任の方へ
通級指導教室への入級は、保護者の方の要望に加え、学級担任の方の支援に対する判断が重要になってきます。クラス内での支援で事足りる場合は、通級指導教室に入級すると授業が抜けることを考えるとむしろリスクの方が大きくなります。
学級担任の方で行える支援とその子どもの特性をよく見極め、気になる場合は通級指導教室の担当者に相談するのがいいでしょう。
この時、大切なのは学級担任が困っているかではなく、その子どもが困っているかだということです。往々にして、パニックを起こす子どもや多動の子どもに注目が向かいやすく、おとなしく授業を受けている子どもは何も問題ないと判断されがちです。しかし、実際には、おとなしく授業を受けているようで、学習に向かう上での困難をかかえているケースもあります。
目立つ子こどもに気を取られて、本当に支援の必要な子どもを見落とすことのないよう気を配っていただけますようにお願いします。
終わりに
通級指導教室は、各学校に整備されていないことをはじめ、希望する対象の児童生徒が必ず入級できるとは限らないことなど様々な課題があり、まだまだ発展途上の領域でもあります。しかし、一人一人の子どもに応じた学習や活動を行うことで、子どもたちが自信をもって生きていくことにつながるのであるならば、絶対に必要なものだと思います。
そして、発展途上だからこそ、弾力的かつ飛躍的に発展する可能性を持っています。通級指導教室の担当者と保護者、担任が連携を取りながら、対象の児童生徒に向き合っていくことで、通級指導教室という制度を発展させていただければ嬉しいです。
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