発達障害って何?

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 このページでは、「注意欠如・多動性障害(ADHD)」「学習障害(限局性学習症,LD)」「自閉症スペクトラム(ASD)」の3つについて、その「定義」「判断基準」「実態把握」「特性に応じた指導」の4つの観点で詳しく解説しています。

 平成19年度から障害児教育から特別支援教育になり,それに伴い「発達障害」と診断された子どもについても特別支援教育の対象となりました。 発達障害で教育的支援を必要とする児童生徒数は平成24年に約6.5パーセント程度の割合で通常の学級に在籍している可能性が示されています。つまり発達障害の子どもは,35人学級では2人程度いる計算になります。どのクラスにもいる発達障害を持つ児童のために,発達障害に関する基礎的な知識を持つことは大変重要です。そこで,ここでは,発達障害に関する定義や判断,対応などをまとめてみました。

 一口に「発達障害」といっても,注意欠如・多動性障害(ADHD),学習障害(LD),自閉症スペクトラム(ASD)など多くの障害があります。また,同じ障害を持つ子どもであっても, それぞれの個性があり,1人として同じ子どもはいません。ここに書かれていることがすべて当てはまるわけではありませんが,子ども理解の際に役立てていただければうれしいです。

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注意欠如・多動性障害(ADHD)について

注意欠如・多動性障害(ADHD)の定義

注意欠如・多動性障害(ADHD)とは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする障害で、社会的な活動や学業に支障をきたすものをいいます。また、症状は7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されます。

注意欠如・多動性障害(ADHD)の判断基準

・支援を考える上で、判断基準は参考になりますが、判断は専門家や専門機関によって行われることが原則で、学校で判断することはできません。
・診断されても、個人によって特徴がさまざまであるので、注意欠如・多動性障害(ADHD)の画一的な指導をあてはめてはいけません。
(ア)以下の「不注意」「多動性」「衝動性」に関する設問に該当する項目が多く、少なくともその状態が6か月以上続いている。
○不注意
・学校での勉強や細かいところまで注意を払わなかったり、不注意な間違いをしたりする。
・課題や遊びの活動で注意を集中し続けることが難しい。
・面と向かって話しかけられているのに、聞いていないように見える。
・指示に従えず、また、仕事を最後までやり遂げることができない。
・学習などの課題や活動に必要な物をなくしてしまう。
・気持ちを集中させて努力し続けなければならない。
・学習などの課題や活動に必要な物をなくしてしまう。
・気が散りやすい。
・日々の活動で忘れっぽい。
○多動性
・手足をそわそわ動かしたり、着席していてももじもじしたりする。
・授業中座っているべき時に、席を離れてしまう。
・きちんとしていなければならない時に、過度に走り回ったりよじ登ったりする。
・遊びや余暇活動におとなしく参加することが難しい。
・じっとしていない。または何かに駆り立てられるように活動する。
・過度にしゃべる。

○衝動性
・質問が終わらないうちに出し抜けに答えてしまう。
・順番を待つのが難しい。
・他の人がしていることをさえぎったり、じゃましたりする。
(イ)「不注意」「多動性」「衝動性」のうちのいくつかが7歳以前に存在し、社会生活や学校生活を営む上で支障がある。
(ウ)著しい不適応が学校や家庭などの複数の場面で認められる。

(エ)知的障害(軽度を除く)、自閉症などが認められない。


*判断の多くの項目に該当し、注意欠如・多動性障害(ADHD)の可能性が高いと考えられる場合でも、不注意や多動性、衝動性の行動特徴は、学習障害(限局性学習症,LD)や自閉症スペクトラム(ASD)などの他の障害の二次的障害の症状の一部として見られることがあります。不注意や多動性、衝動性の面に支援が必要であることは示しているが、他の面にも支援が必要であることも留意しておくことが大切です。
*注意欠如・多動性障害(ADHD)のうち多動が少なく、不注意が優勢の子どもの場合、ADDであることも考えられます。女子に多く、発見が遅れがちです。

注意欠如・多動性障害(ADHD)の実態把握

(ア)知的発達の状況
○知的な発達に遅れは認められない。全体的には極端に学力が低いということはない。
(イ)教科指導における状況
○教科指導においては、不注意な間違いが多く、必要なものをよくなくす。
○教師の話や指示を聴いていないように見える。
○指示に従えず、課題をやり遂げることができないところがある。
○質問が終わる前に出し抜けに答え始めてしまうことがある。


(ウ)行動上の状況
○離席があったり、椅子をガタガタさせたりなど、落ち着きがないように見える。
○順番を待つことが苦手
○友だちや教師の話を遮るような発言があり、授業中、友だちのじゃまをすることがある。
○自分の持ち物の整理整頓が難しく、机の周辺が散らかっている。
○準備や後片付けに時間がかかり、手際が悪いところがある。
○時間内に行動したり、時間を適切に配分したりすることができない。
○しゃべりすぎるところがある。

(エ)対人関係の状況
○じゃまをしたり、相手をけなしたりして、友だちとのトラブルが多くみられる。
○自分が非難されると過剰に反応する。

注意欠如・多動性障害(ADHD)の特性に応じた指導

 注意欠如・多動性障害(ADHD)の子どもは、セルフコントロールができにくく、遠い将来のことを予測して、コツコツと計画的に目的を達成していくことが苦手です。
 問題となるような行動をわざとやっているような印象を受けますが、「やってはいけない」とわかっていることも「やめられない」ので行動を厳しく叱責したり強制的に抑えたりしても根本的な解決にはつながりません。また、集中する時間が極端に短くじっとしていられない多動の子どもは,もっている能力はあっても学習の定着が難しく,何度も練習するなどという過程をたどることは困難なことが多いです。

○環境調整→セルフコントロールを助ける枠組みや手がかりを提供する
・一回の課題時間を短くしてくり返し課題を行うようにする
・結果や評価を求める傾向があるので、即時的に、かつ頻繁に賞賛を与える。
・立って活動してもよい条件をうまく利用する→多動の調整

○自身のセルフコントロール力を高める
・望ましい行動や結果など将来のことを見据えて計画を立てる。
・ビデオなどを使い、実際の自分自身の行動や状況を振りかえる。
・セルフコントロールにかかわる知識、スキル、運用の仕方を整理して学習していく。
○薬物療法 
・医療との連携

学習障害(限局性学習症,LD)について

学習障害(限局性学習症,LD)の定義

 学習障害(限局性学習症,LD)とは,「基本的には全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算するまたは推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を示すものである」と定義されています。特に読み書きに関しては,ディスレクシアと称されることもあります。

 学習障害(限局性学習症,LD)は,原因としては,中枢神経系に何らかの機能障害があるとされています。視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒障害などの障害や,環境的な要因が直接的な原因となるものではありません。
学習障害をもつ子どもは努力不足で学習成績が低いわけではなく,障害に配慮した工夫を行うことが必要です。また,平成24年「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)中央審議会初等中等教育分科会(報告)」の中で,「合理的配慮」として,その必要性が次のように挙げられています。
  「合理的配慮」とは,「障害のある子どもが,他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために,学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり,障害のある子どもに対し,その状況に応じて,学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり「学校の設置者及び学校に対して,体制面,財政面において,均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」,と定義した。なお,障害者の権利に関する条約において,「合理的な配慮」の否定は,障害を理由とする差別に含まれるとされていることに留意する必要があります。

学習障害(限局性学習症,LD)の判断基準

学習障害(限局性学習症,LD)のチェックリストを紹介します。
学習障害(限局性学習症,LD)の気づきポイント
聞く
・聞き間違いがある(「知った」を「行った」と聞き間違える)
・聞きもらしがある
・個別に言われると聞き取れるが,集団場面では難しい
・指示の理解が難しい
・話し合いが難しい(話し合いの流れが理解できず,ついていけない)


話す
・適切な速さで話すことが難しい(たどたどしく話す。とても早口である)
・ことばにつまったりする
・単語を羅列したり,短い文で内容的に乏しい話をする
・思いつくままに話すなど,筋道の通った話をするのが難しい
・内容をわかりやすく伝えることが難しい
読む
・初めて出てきた語や,普段あまり使わない語などを間違える
・文中の語句や行を抜かしたり,または繰り返し読んだりする
・音読が遅い
・勝手読みがある(「いきました」を「いました」と読む)
・文章の要点を正しく読み取ることが難しい
書く
・読みにくい文字を書く(字の形や大きさが整っていない。まっすぐに書けない)
・独特の筆順で書く
・漢字の細かい部分を書き間違える
・句読点が抜けたり,正しく打つことができない
・限られた量の作文や,決まったパターンの文章しか書けない
計算する
・学年相応の数の意味や表し方についての理解が難しい
・簡単な計算の暗算ができない
・計算するのにとても時間がかかる
・答えを得るのにいくつかの手続きを要する問題を解くのが難しい
・学年相応の文章題を解くのが難しい
推論する
・学年相応の量を比較することや,量を表す単位を理解することがむずかしい
・学年相応の図形を描くことが難しい
・事物の因果関係を理解することが難しい
・目的に沿って行動を計画し,必要に応じてそれを修正することが難しい
・早合点や,飛躍した考え方をする


以上合計30問から構成されています。評価については,「0:ない,1:まれにある,2:ときどきある,3:よくある」の4段階で行います。それぞれの領域で合計点を算出して,12ポイント以上の領域が一つでもあれば「学習上に(LD的な)困難を有する」と判断するとなっています。

学習障害(限局性学習症,LD)の実態把握

学習障害(限局性学習症,LD)のもつ5つの困難として下の表のように表されています。

学力の困難(主症状)読み,書き,算数(数学)の特異的学習能力の困難
ことば・会話の困難(主症状)聞く,話すなどのコミュニケーション能力の困難
社会性の困難ソーシャル・スキル,社会的認知能力の困難
運動の困難協働運動,運動企画能力の困難
注意集中力の困難注意の集中の困難,多動・衝動などの行動の困難

学習障害(限局性学習症,LD)について-特性に応じた指導

特性に応じた指導として次のような方法が考えられます。

・音読で行の「読み飛ばし」が目立つ子には→読むべき行以外の箇所が隠せる厚紙(スリット)などを使用する。

・漢字の構成を読み取ることが難しい子には→漢字の構成の組み立てをばらばらにできる教材を使用する。

・音読の時,読みにくい子には→一列とばしにマーカーを入れていく。

・スケジュールがわからない子には→イラストや画像を使って示す。

・事実関係が把握できない子には→文字にメモをして,それを見せながら頭の中を整理させる。

・整理整頓が苦手な子には→整理のことは考えず箱の中にどんどん入れていったり、収納する場所を示すイラスト利用したりする。

・話を聞くのが苦手な子には→タイマーなどで聞く時間がいつまでか知らせたり、聞いている間,カウントをさせたりする。

・人に自分の言いたいことを伝えるのが苦手な子には→コミュニケーションカードを使用する。

自閉症スペクトラム(ASD)について

自閉症スペクトラム(ASD)の定義

 自閉症スペクトラム(ASD)とは,かつては「自閉症」,「高機能自閉症」,「アスペルガー症候群」の総称で,正式には「広汎性発達障害(PDD)」と言われていました。
 2013年,DSM-5第5版が出版され,「広汎性発達障害」というグループ名が廃止され「自閉症スペクトラム」が診断名として採用されました。そこでは,「広汎性発達障害」「発達障害」では対象でなかった,障害でないタイプの人たちまで含めて考えているところが特徴的です。
 それでは,「自閉症スペクトラム(ASD)」の定義について述べましょう。
自閉症」は,DSM-Ⅳにおいては,広範性発達障害に分類されている自閉症障害に概ね相当しています。広汎性発達障害とは,社会性の障害を中心とする発達障害の総称で,自閉症の上位概念です。ここでいう「広汎性」とは,発達において全般的に不均一に表れている状態を意味しています。

自閉症スペクトラム(ASD)」の基本的な特性は,(ア)社会性の障害,(イ)コミュニケーションの障害,(ウ)反復的で常動的な興味・行動の3つが挙げられます。そしてできることと苦手なことに大きな差があるということも特徴的です。
 二次障害として症状が出ている場合や虐待などのために障害として症状を呈している場合もあります。医師によっても診断が違うこともあることを考えると,あまり診断名にこだわらずその子ども自身を見て実態を把握する必要があると思います。

 自閉症スペクトラム(ASD)の判断基準

では,基本的な障害特性について具体的に挙げてみましょう。
(ア) 社会性の障害 ・一人遊びに没頭する。
・自分の好きなことを質問し続ける。
・かかわり方が一方的である。
・ルールに従った遊びが難しい。
・仲間関係をつくったり相手の気持ちを理解したりすることが困難である。
(イ) コミュニケーションの障害 ・話し言葉やジェスチャーを示さない。
・反響言語(エコラリア)だけを話す。
・話し方が流暢であるが,奇妙な言葉づかいをする。
(ウ) 反復的で常同的な興味・行動
・毎日同じ服を着る
・日課や物の配置,道順などがいつも同じであることに固執する。
・体を前後にゆらしたり,手をひらひらさせたりする。
・手をかんだり,頭を何かにぶつけたりする自傷行動がみられる。
*ただし,これらの常同行動や自傷行動は,重度の知的障害のある児童生徒や大人でも見られます。

自閉症スペクトラム(ASD)の実態把握

 自閉症の特徴として次のことが挙げられます。
(ア) 社会性の障害
・ことばの遅れ ・エコラリア ・人称の逆転 ・疑問文による要求 ・会話の困難 ・比喩や冗談の理解困難
(イ) コミュニケーションの障害
・ことばの遅れ ・エコラリア ・人称の逆転 ・疑問符による要求 ・会話の困難 ・比喩や冗談の理解困難
(ウ) 反復的で,常道的な興味・関心
・常同的な反復行動 ・自己刺激行動 ・興味の限局 ・順序固執 ・強迫的な質問癖 ・ファンタジーへの没頭

 上記以外に挙げられる特性として,「感覚知覚の過敏性・過度の鈍感性」「刺激の過剰選択制」「知能テストの著しいアンバランス」などがあります。 「感覚近くの過敏性・過度の鈍感性」は,多くの自閉症の児童生徒に見られるようです。例えばガラスを爪でひっかいたような音に平気である(鈍感性)反面,特定の人の声(高い声など)や雑音などには極端な恐怖を示す(過敏性)こともあります。人に触られることを嫌がったり(過敏性)怪我をしても痛みをあまり感じないように見えたりする(鈍感性)ことがあります。銀紙やセロファンなどの光る物,換気扇や扇風機などの回転するものに強く興味をもつ子どももいます。
 「刺激の過剰選択制」とは,ある一つの刺激要素だけにいつでも同じ反応をすることや,ある一つの刺激要素でしか物事をとらえていない状態です。
 「知能テストにより著しいアンバランス」は,得意な面と不得手な面が顕著であることですが,そのことを利用して学習計画を立てることが可能です。WISCなどの知能検査の結果によって,それを参考にして学習を進めていくことができます。得意な学習を積極的に行い,苦手な学習をスモールステップで行うことを基本にすると効果的です。

自閉症スペクトラム(ASD)の特性に応じた指導

自閉症スペクトラム(ASD)はTEACCH(ティーチ)プログラムが有効であると言われています。
TEACCH(ティーチ)は,ノースカロライナ大学精神科のショプラー教授のグループが開発したプログラムです。 日本でTEACCHを推し進めている佐々木正美氏は基本理念として次の9つを挙げています。
1、自閉症の特性を理論よりも実際の子どもの観察から理解する
2、親と専門家の協力
3、子どもに新たなスキルと教えることと,子どもの弱点を補うように環境を変えることで子どもの適応能力を向上させる
4、個別の教育プログラムを作成するために正確に評価する
5、構造化された教育を行う
6、認知理論と行動理論を重視する
7、現在のスキルを強調するとともに弱点を認める
8、ジェネラリストとしての専門家
9、障害にわたるコミュニティに基盤をおいた援助
中でもTEACCH(ティーチ)でよく言われているのは,構造化という概念です。
構造化の定義をいろいろと探してみたのですが,結局は自閉症の特徴である,視覚情報処理,特定のことに興味を強く持つ,興味を持ったことに記憶がよいといった事柄をうまく統合して弱点を補うということでしょう。また,暮らしやすくするための生活の組み立てや工夫,安心できるように生活を整えていくことを構造化ということばで表すとされています。
実態把握→工夫した支援→評価(その方法が適切か)→支援の修正→評価・・・・ ということを繰り返すのは常に基本だと思います。

いかがでしたでしょうか?「発達障害って何?」というテーマで、「注意欠如・多動性障害(ADHD)」「学習障害(限局性学習症,LD)」「自閉症スペクトラム(ASD)」の3つについて、その「定義」「判断基準」「実態把握」「特性に応じた指導」の4つの観点で詳しく解説してきました。たくさんの観点や特徴がありますが、結局はそれらの分類にこだわりすぎることなく、その子の実態をよく観察して、ひとつひとつ課題を解決できるように支援していくとことが大切だと思います。

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