特別支援教育にまず必要なことは,実態把握と言われています。確かに子どものことを知らなければ始まらないというところはあり,とても大事なポイントです。 工夫するべきことは、実態を把握するための方法とその活かし方でしょう。 実態を把握するために,いくつか方法があるのでそれを紹介します。
面接法による実態把握
保護者や本人から「生育歴」や「現在の家庭での状況・様子」を聞いて把握することが有効です。その情報が教育支援計画に記載され,誕生から今までの状況が各機関に送られていくのが理想的です。
しかし、現実には,なかなかうまく運ばれません。医療・福祉・教育の連携などの必要性が叫ばれていますが,残念なことに,それぞれが独立していて、連携が言葉だけになっているのが現状です。他にも,個人情報の保持やそれを送るための書類の煩雑さなど挙げれば枚挙にいとまがないでしょう。その制度を整えるようと高い志を持つことも大切ですが,個人ができることは限られています。それより、目の前の子どもたちの実態を把握して活動や学習を進めていくことの方を優先させましょう。そこで,保護者や関係諸機関の方と面接をして今までの状況を聞き取り,実態を把握します。日常で行われていることですが,意外と重要なポイントがあることに気づきます。たとえば,観ているテレビ番組,好きなキャラクター,はまっているものなどピンポイントの情報は家族や身近な者のみ知っているものといえます。
観察法による実態把握
観察は,教師が日常的に行っていることです。ただあまりにも日常的なので,単に「見るだけ」で終わっている場合も少なくありません。観察の「観点」,「記録方法」,「分析」などの工夫によって初めて、有力な情報となり得ます。
ところで、観察の視点をしぼっておくと課題が明確になるため,方法としては有効です。また,できれば複数の教師が観察して記録などにとると,子どもの実態が見えやすくなります。しかし,残念ながら実際問題として,観察者を複数配置するのは難しいでしょう。複数配置に代わる方法として,ビデオに録画して見るという方法も考えられますが,ビデオに録画することで普段と違った状況になることも考えられますし,またビデオの位置によってすべてをチェックできるわけではありません。最初はできる範囲で行っていけば良いでしょう。
観察の観点としては,「健康状態」,「コミュニケーション状況」,「けんかなどの際の状況」,「学習態度や姿勢」,「学習・行動上の得意・不得意」などが挙げられます。子どもを観察していると子どもの特性が見えてきます。子どもの特性がわかると、効果的な対応ができるようになります。
観察法による記録の方法
(1)自由記述による記録方法
自由記述による記録方法
文字通り,自由に気のついたことを記述していく方法です。ただやみくもに記述しても、実際に活用できない部分があります。行動観察の目的から離れた内容の記述になっていたり、私見や主観が多すぎて「事実」か「推察」かがわからなかったりすると参考になりません。従って記録は客観的な事実を記録していく必要があるといえます。
実際には、下の表のように、時間割ごとにマス目を作り、出来事や気づいたことなどを書いていくのが良いと思います。時間的に記録するのが難しい日があるかもしれませんが、少しずつでも記録していくのが大切です。
(2)事象記録法
支援者(観察者)が設定した時間内で,観察を行い,ある行動の頻度を測定する方法です。たとえばまばたきをした回数,手を上げた回数,教室から退室した回数,物を傷つけた回数などを測定することが挙げることができます。観察の視点が明確なので、自分が観察したい項目を支援者に記録してもらいやすい方法です。
(3)インターバル記録法
行動が生じた実際の回数の測定値を記録する手段です。行動が生じるたびに数えるのではなく、ある観察期間内でその行動が生じたインターバルの数を数えます。
インターバル記録法ではまず、標的行動を観察する時間(通常は10分から1時間)を定義します。そしてこの行動観察時間を等しいインターバルに分けます。通常、インターンバルの長さは30秒以下です。インターバルが短いほど、データの正確さは増します。データを記録するために教師は、時間のインターバルを表わすマス目を並べて書きます。教師は、おのおののマスすなわちインターバルの中に、行動がそのインターバル時間内に生じたか(+)、生じなかったか(-)を単純に記入します。そのため、各インターバルには、+か-のどちらかの印しかありません。」(ポールA.アルバートら,2004,「はじめての応用行動分析」二瓶社 p.89-90から)
(4)時間サンプリング法
時間サンプリング法はインターバル記録法と似ていて,観察者があらかじめ設定しておいた観察時間をいくつかのインターバルに分け,そのインターバル内で標的となる行動が生じたかどうかを記録します。インターバル記録法と異なるのは、秒間隔ではなくて、分間隔であるということです。各インターバルの終了間際に観測をして,そのとき標的行動が生じたらチェックをいれます。(小田浩伸ら,2009,「基礎からわかる特別支援教育とアセスメント」明治図書p.65-66)
(5)エピソード記述
行動観察の記録方法の一つです。子どもの行動だけを書き留めるだけでなく,その行動の前後に関してエピソードを含めた文脈(やりとり)に関して詳細に子どもの側から受け止めながら記述する方法です。行動の理解がしやすくなるようです。
(6)行動の生起頻度を測定する記録方法
推移がわかるような記録表を用いて,特定の行動の頻度を観察して記録する方法です。時間帯、場所、行動の様子、持続時間、誘因などを項目として挙げます。
(7)コミュニケーションをポイントにした記録方法
コミュニケーション行動に着目して,さまざまな場面で,その状況や対人関係に応じた方法が用いられています。その様子を生活場面全体からとらえることによって,その子どもの特性に応じた適切なコミュニケーション支援のあり方がみえてくるということです。子どもたちどうしや教師との会話の中で,見えてくるものは大きいです。それを記録しておくと,子どもの実態が理解できるのはうなずけることです。
発達検査による実態把握
発達検査によって障害のラベルを貼ることは避けなければなりません。肝心なのは,子どもをみるということです。しかし,発達検査の結果が何らかの指針のひとつになることは大いに考えられます。いくつかの発達検査があり,それぞれ専門書・解説書が数多くでていますので,詳細はそれらに目を通していただくことにして,ここでは下記の検査について簡単に解説しておきます。
(1)WISC-Ⅳ(ウィスクラー知能検査)
ウィスクラーが考案した児童の知能検査です。能力のばらつきを見るのに適しています。病院などで,「発達障害」の診断の時に行われることが多いように思います。「発達障害」は,力のアンバランスがあることが多いためWISCの結果で明確になることがあって、そのためよく使われるようです。WISCーⅣは,4つの指標で表されています。4つの指標とは,言語理解指標(VCI),知覚推理指標(PRI),ワーキングメモリー指標(WMI),処理速度指標(PSI)です。
・言語理解指標(VCI)
推理、理解、概念化を利用する言語能力を測定。
聞いたり話したりすることを必要とする活動や、言葉や概念の意味理解が必要な活動と関連がある。
「話す」「聞く」「読む」「書く」のどこに苦手さがあるかをアセスメントする必要がある。
→低い場合:なるべく指示は短く区切ってシンプルに!指示が伝わったかどうかを確認!
・知覚推理指標(PRI)
知覚推理と知覚統合の検査
視覚情報の理解や処理、推理力や応用力、問題解決能力と関連がある。
→低い場合:視覚情報はなるべくシンプルに!活動の目的、工程を明示するなどの工夫
・ワーキングメモリ―指標(WMI)
注意、集中、ワーキングメモリ―を測定
話す、読む、書く、計算する、推論するすべての領域のつまずきと関連
→低い場合:注意をこちらに向けてから話す!口頭だけではなく、メモを使いながら話す、話すときは簡潔にまとめて伝える工夫で困難を軽減
・処理速度指標(PSI)
知的処理速度、書字運動処理速度を測定
単純な視覚情報を素早く正確に、順序良く処理、あるいは識別能力を測定する。
→低い場合:作業時間の調整や、こまめに休憩をとる、作業を区切るなど集中力をあげる工夫が必要
*得意なところ(強み)が、苦手なところ(弱み)を補うことができればいい。
*WISCは、得意不得意を知るうえで有用であるが、その結果で、診断を行うものではない。
参考文献・資料:WISC―Ⅳの臨床的利用と解釈 日本文化科学社
WISC-Ⅳ(ウィスクラー知能検査)検査セットについては日本文化科学社へ
(2)K-ABC
カウフマンによる子どものための心理・教育アセスメントです。2歳6カ月から12歳11カ月までの子どもの知的活動を評価します。子どもが課題を解決する時,継次的か同時的を測定していくのに適しています。 下位検査バッテリーは,手の動作,数唱,語の配列,魔法の窓,顔さがし,絵の統合,模様の構成,視覚類推,位置さがし,表現ごい,算数,なぞなぞ,言葉の読み,文理解の14の検査です。
これらの検査は,継次処理尺度,同時処理尺度,認知処理過程尺度,習熟度尺度に分類されます。 継次処理尺度とは,連続的・時間的な順序で情報を処理して課題を解決することで,同時処理尺度は,一度に与えられた多くの情報を空間的に統合し、全体的に処理して課題を解決することです。また認知処理過程尺度は,継次処理尺度と同時処理尺度を合わせたもので、認知機能の全体的水準を示します。習熟尺度は,知識、言語概念、教科学習に関する技能です。
(3)鈴木ビネー
鈴木治太郎さんが考えられた知能測定法です。その歴史は古く,大正時代に着手され,何度も改訂版が出版されています。特徴としては,子どもの知能を検査への集中力を維持しながら短時間で測定できる事,問題に取り組む子どもの姿勢を尊重し,その特質を診ることを目的としているためむやみに制限時間を設けていない事などが挙げられます。検査問題は76種類ありますが、年齢によってはすべてを行う必要はありません。検査問題の一例を挙げると,自分が男の子か女の子かを尋ねる検査,絵を見て見えるものの名前を挙げていく検査などがあります。
(4)新版K式
「姿勢・運動」「認知・適応」「言語・社会」の3分野に分け数値を出します。課題が分かれているので、得意・不得意などがわかるやすいことも特徴として挙げられます。形はめ,積木積み上げ,積木模倣しての作成,お絵描きなどの検査項目があります。
(5)グッドイナフ
人物画知能検査で,適応年齢は,3歳-10歳頃です。人物の部分・頭、胴体、手足など部分の比率・全体や部分の明瞭度,明細度に注目して採点します。項目は頭・目・胴・口・毛髪・腕と足の付け方・耳の位置と割合・指の細部など50項目ある中、一つずつチェックして点数をつけていきます。
(6)バウムテスト
性格検査に用いられる投影法のテストのひとつです。被験者に樹木、もしくは実のなる樹木を描かせるテストで,B5のケント紙とHBの鉛筆、消しゴムが必要です。準備物が少なくてよいので比較的容易に行うことができる性格検査と言われています。ただし被験者との実地者との間にラポール(心のつながり)を形成しなければなりません。描かれた木を分析して結果を導きます。
(7)PFスタディ
アメリカのワシントン大学心理学教授ソールローゼンツアイク博士によって考案された投影法による人格検査です。絵画欲求不満テストともいいます。日常によく経験する欲求不満場面を絵で示し、それに対する言語的反応を通して人格特徴を評価するものです。適応年齢は4歳以上とされていて,「児童用・青年用・成人用」の3種類の心理検査が作成されています。
いかがでしたでしょうか?実態把握にはいろいろな方法があります。裏を返せば、決定版といえるものがないということでもあります。WISC-Ⅳ(ウィスクラー知能検査)のように近年、多くの病院で使われているものもありますが、これも改訂が続けられています。常に新しい方法が模索されていることを念頭に置いて,アンテナを高くしておくことが必要なのだと思います。また,心理検査は,数値だけをみるのではなく,目の前の子どもをよく見て総合的に実態を把握して,子どもの課題の改善に役立てるべきものです。
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